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ガエル ファイエのPetit Pays、ルワンダの隣国ブルンジを舞台にした小説

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2016年の高校生が選ぶゴンクール賞を受賞したGaël FayeのPetit Paysを読みました。

こちらの本は、加藤かおりさんによる日本語訳本も「ちいさな国で」というタイトルで出版されています。また、2020年3月には、同タイトルの映画も公開されており、筆者は次回作を執筆中だそうです。

この本の筆者は、1982年ブルンジ生まれ、ブルンジというのは、1994年に大虐殺(ジェノサイド)があったルワンダの隣国で、この両国は双子になぞえらえているそうです。この大虐殺は、昨日まで隣人だったツチ族フツ族間の争いから始まり、人口の8割以上を占めるフツ族による少数派ツチ族への大虐殺が行われ、約4か月の間に約100万人もの人々が犠牲になり、200万ものルワンダ人が難民となったと言われています。隣国ブルンジでも内戦が続き、30万人以上が犠牲になりました。

筆者のガエルは、ブルンジ国内のフランス人学校にて学び、内戦勃発後の1995年に妹とともにフランスへ渡り、その後金融学の修士号をとります。その後、ラッパー/スラマー(自作の詩を朗読する人)となり、今回の作品を書きました。

ラッパーだけあって、言葉づかいやそのリズム感が美しく、詩を読んでいるような表現の美しさがあるように思いました。日本語訳も出ているので、こちらも参照しましたが、日本語訳後も原文が持つ素晴らしさを引き継ぎ表現しています。

ストーリーの前半は筆者のアフリカの国での自然や音楽や色彩あふれる少年時代や描かれ、両親の不和や別離による悩み、フランス人とルワンダ人のハーフである自身のアイデンティティーへの悩み、そして後半では内戦による祖国や友人や知人達の変わっていく様が描かれています。

この中でも、素晴らしかったのが、主人公と本との出会い。内戦が激化していく中で、かつての友人達は戦争に没頭し始め、武器や暴力に流れていったのだが、筆者は近所にすむ親切な本とと知性を選び取っていく。本好きな隣人である夫人は、主人公にこのように言って本を勧めます。

「一冊の本には、あなたを変える力がある。あなたの人生さえも。そう、ひと目惚れのように。運命の出会いはいつ起こるかわかりません。本をあなどってはだめ。本は眠れる精霊ですよ」

分からない部分は日本語訳を参照していけば、中級レベルでも十分読めると思います。

 

本のあらすじ

さまざまな民族が暮らすアフリカのちいさな国、ブルンジ。仲間たちとマンゴーをくすねたり、家族でドライブしたり、少年ガブリエルは幸せな日々を送っていた。しかし、大統領の暗殺をきっかけに内戦が勃発。親戚や知り合いが次々と消息を絶ち、平穏な生活は音を立てて崩れていく...フランスで活躍するラッパーが、自らの生い立ちをもとに綴った感動作。高校生が選ぶゴンクール賞受賞!

 

訳が素敵だなと思った部分はたくさんありましたが、一部紹介します。

☆Elle l'aurait aussi fait pour Ana et moi. Sans hésiter. Je le savais. Je l'aimais. Et maintenant qu'elle avait disparu avec ses blessures, elle nous laissait avec les nôtres.

アナとぼくのためにも、母さんは同じことをしただろう。けっして尻込みせずに。それはわかってる。ぼくは母さんを愛している。そして母さんは、姿を消してしまった。傷を抱えて。ぼくらに傷を残して。

☆Allongé dans mon lit, je pouvais admirer le spectacle des balles traçantes dans le ciel. En d'autres temps, en d'autres lieux, j'aurais pensé voir des étoiles filantes.

空を行き交う曳光弾のショーに見入ったものだ。べつの時、べつの場所であれば、流れ星を目にしていると思っただろう。

 

☆Je pensais être exilé de mon pays. En revenant sur les traces de mon passé, j'ai compris que je l'étais de mon enfance. Ce qui me paraît bien plus cruel encore.

ぼくは祖国を追われたと思っていた。けれど、過去の痕跡をたどるたびに出て、理解した。ぼくは、ぼくの子ども時代を追われたのだ。そしてそれは、祖国を失うことよりずっとぼくには残酷に思われた。

 

☆Armand éclate de rire. J'en fais autant, l'absurdité de mon projet me paraît pour la première fois.

アルマンが弾けるように笑い、ぼくも笑う。そう言われて初めて、この旅のばかばかしさに気づいたのだ。

こちらは筆者の本と同タイトルのラップです。

youtu.be

 

著者本人が音読したものがありました。ラッパー/スラマー(自作の詩を朗読する人)だけあって、フランス語のリズムが心地いいです。

youtu.be

以下、訳者の感想の日本語とフランス語を見つけましたので、紹介します。

アフリカにある“ちいさな国”、ブルンジを舞台にした本書は、フランスでラッパー/スラマー(自作の詩を朗読する人)として活躍するガエル・ファイユのデビュー作です。主人公は著者と同じくフランス人の父とルワンダ人の母をもつガブリエル(ギャビー)。物語は成人してフランスに暮らすギャビーが1990年代前半にブルンジで過ごした自身の少年時代を回想する形で綴られています。ブルンジでは当時、大虐殺を経験した隣国ルワンダと同様、フツ族ツチ族の民族対立が激化し、内戦が勃発。ギャビーは仲間たちと楽しい日々を過ごしていた愛する祖国を捨て、フランスへの避難を余儀なくされます。本書は民族対立の残酷な現実を子どものまなざしを通じて写し出した作品であるのと同時に、戦いに巻き込まれ、一足飛びに大人になることを強いられた少年の喪失の痛みを描いた物語としても読めるでしょう。事実、主人公は幸せな日常、家族、無垢さなど大切なものを次々に奪われていきます。失った祖国や子ども時代を追慕するその切々とした語りはまるで詩を読んでいるかのように美しく、深く胸に沁みてきます。翻訳にあたっては、そのような原文のもつ詩的な味わいや、アフリカの色や音や匂いがダイレクトに伝わってくる精彩な筆致を損なわないよう努めました。さらに、音楽を感じさせるリズミカルな原文の魅力を訳文に反映させるにはどうすればいいのか大いに頭を悩ませました。

Ce récit dont la trame se déroule au Burundi, « Petit pays » d’Afrique, est le premier roman du rappeur et slammeur Gaël Faye. Tout comme l’auteur, le personnage principal du roman, Gabriel, est né d’un père français et d’une mère rwandaise. Le récit, raconté par Gabriel devenu adulte et vivant en France, retrace les souvenirs de son enfance dans le Burundi du début des années 1990. À l’instar du Rwanda, pays voisin victime d’un génocide, le Burundi est alors le théâtre de l’exacerbation du conflit ethnique entre Hutus et Tutsis, puis de son éclatement en guerre civile. Gabriel se voit ainsi contraint de trouver refuge en France, laissant derrière lui pays natal et amitiés de jeunesse. Ce livre, s’il décrit la réalité cruelle d’un conflit ethnique à travers le regard de l’enfant, peut aussi se lire comme l’écho narratif douloureux de la perte soudaine de choses précieuses comme les joies quotidiennes, la famille et l’innocence d’un gamin qui, entraîné par la guerre, se voit forcé de devenir adulte sans transition. Tel un long poème, le propos émouvant du narrateur sur son pays perdu et sur sa jeunesse détroussée atteint le lecteur droit au cœur. En traduisant, je me suis efforcée de préserver et de transmettre la poésie de l’œuvre originale, ainsi que les couleurs, sonorités et odeurs typiquement africaines qu’elle exhale... tout en avouant la difficulté que présentait, pour la traduction japonaise, le défi de reproduire tout l’attrait qu’exerce, sur les lecteurs francophones, le rythme quasi musical de la version originale.